
■前回『痛みは身体に何か起きているぞ、早く対処しなさい、というシグナル』と『筋肉痛は筋線維を修復する痛み』というような話を書きました。これらの場合は明らかな原因がある時のこと。「この頃あっちもこっちも痛いの」とか「最近、ちょっとした痛みも絶えられない……」そんな声もよく聞きます。今回は、そんな痛みの原因はもしかしてこれかも……という事を書いてみました。
■痛みは「異常があるぞ」という情報を脳が神経から受け取って初めて「痛い!」となります。解り易い例が、局所麻酔で手術を受けている時です。意識があって頭では自分の身体が切られていることが解っていても、「痛い」という感覚の情報が神経回路を通って脳に伝わらなければ、痛いという事を感じません。
椎間板ヘルニアなどの腰痛で神経ブロック注射をすることがありますが、これも痛みの伝達を抑えるものです。運動神経は遮断しないので身体は動き、痛みの信号は途中で抑えられるのでは和らぎます。「注射してもちっとも治らない」と言われる方がいらっしゃいますが、治しているのではなく感じなくしているだけなので当然なのです。でも、痛みが和らぐと気持ちも楽になり、ゆっくり眠れるので、それが治っていく元になります。(痛みが和らいだからと言って、無理すると返って悪くなりますよ)
たとえると走り高跳びのバーみたいなボーダーライン(痛みの「閾値」といいます)があって、そこを越えないと次(神経)に伝わらないのです。走り高跳びのバーを高く跳んでもギリギリで跳んでも跳べれば一緒、でもどんな惜しくてもひっかかればそれで終わりってことです。痛みの強さは、凄い勢いで何回も信号が出る時に酷い痛みとして伝わります。
■この状態を抜け出すのには、副交感神経をしっかり働けるようにする事です。副交感神経の働きは食べ物を消化・吸収し身体に必要な栄養素を準備します。そして栄養分など修復するために必要なものを、異常が起きている所に血液にのせて送り込みます。
また、良い睡眠が取れれば、成長ホルモンもしっかり出るので(成長ホルモンは身体の修復にも必要です)異常がある部分の修復が進みます。過敏だった神経も閾値が上がり治まってくるでしょう。
■東洋医学では『春』と最も関係の深い感情として『怒』としています。春は気候の変動が大きく自律神経が乱れやすいだけでなく、生活・仕事などの環境が変わる方も多く、慣れない環境でイライラする事も多いかもしれません。さて、怒っている時は、「許せない」とか「嫌だ」とか「もう絶えられない」っていうような事があって怒るんですよね。まさか、リラックスしていたり楽しい時に「怒り」の感情は起きないですよね。(もしそのような方は、まず心療内科に) 早い話、何らかのストレスを感じているから怒りを感じるのだと思います。
■ストレスたっぷりの状態、いわゆる『戦闘態勢』なので、交感神経がフル稼働している状態です。「許せない」「酷く不快だ」と思うと、脳からの指令で、副腎髄質という器官からアドレナリンとノルアドレナリン、副腎皮質からコルチゾールというホルモンが血液の中に分泌されます。コルチゾールは前回のお話なのでアドレナリンとノルアドレナリンの説明を簡単にします。
■それから、怒りっぽくならないようにするには、即効性は無いかもしれませんが、長い目で見れば食事も大切です。例えばカルシウム。神経の伝達には不可欠で、食物から吸収できる量が不足すると、自分の骨を溶かしてでも神経の方に回すぐらい大切な物。だから不足するとイライラが起きると言われてます。
■カルシウムと合わせと取らないといけないのがマグネシウム、興奮した神経を静める働きがあります。また、カルシウムにもいくらか欠点があるのですが、その欠点を補ってくれるのがマグネシウム。だからカルシウムと併せてマグネシウムも取りましょう。豆腐・納豆などの大豆食品、アーモンド・ピーナッツなどの種子類に沢山含まれています。バナナも良いですよ。
■それからビタミンB1も気分を安定させるのには大切です。脳の栄養=グルコースを脳が使える形に変えるにはビタミンB1が必要です。脳が栄養不足に陥ると精神が不安定になってしまいます。ビタミンB1は豚肉(ハム含む)、米ぬか(ぬか漬)、大豆などに沢山含まれています。
さて、こんな心理学の実験をご存知ですか? 机の前に座り、両腕を机の上にのせ、右腕でも左腕でもかまわないので、どちらかの腕を衝立で見えないようにします。例えばそれが右腕として、目の前には右腕の代わりにマネキンの腕を置き、その腕をじっと見つめるようにします。で、向かい合わせに座った人が、マネキンの腕を筆などでコチョコチョします。自分の腕でもないのに、くすぐったいような変な感じがしてくると思います。背中がモゾモゾするぐらいこそばい感じがしてきたところで、正面の人が急に筆を金槌に持ち替えてマネキンの腕を「バンッ!」て叩きます。そしたら、殆どの人が思わず右腕を引っ込めたり、自分の腕を叩かれたかのような衝撃をうけます。自分の腕じゃないのに……。人間の感覚って見ているだけで他(人)の感覚も貰ってしまったり、かなり複雑です。